大阪府北部地震、平成30年7月豪雨で被害に遭われた皆様に、謹んでお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
日本の国土は世界の陸地の1%に及びませんが、世界で発生する地震のおよそ10%が日本とその周辺で発生しています。
また、多くの水害があります。災害が発生したとき、私たちと、家族同然のペットの命を守るにはどうすればいいのでしょう。
危機管理教育研究所所長の国崎信江先生に伺いました。
阪神淡路大震災がもたらした被害に衝撃を受け、女性かつ母としての視点で、家庭を守るための防災対策の研究を進め、2008年、株式会社危機管理教育研究所を設立。地震調査研究推進本部政策委員会、防災科学技術委員会などの国や自治体の防災関連の委員を務め、現在は講演活動を中心にテレビや新聞などのメディアに情報提供を行っているほか、被災地での支援活動を、発生直後から継続して行っている。
この記事の内容をまとめると……
「同行避難」と「同居」は違います
地域社会にペットと一緒になじんでおくことが大切です
避難所で足りなくなるのは「ペットの衛生用品」です
「震災疎開」も考えましょう
ハザードマップのチェックは必須です
平成30年3月に、「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」は「人とペットの災害対策ガイドライン」に改訂されました。
そこでは、災害時はペットと安全な場所まで避難すること(同行避難)を基本としつつ、飼い主様が避難所で愛するペットと過ごせるか(同伴避難できるか)は、避難所によって異なるとしています。
災害が発生し、家にいられなくなった場合、飼い主様はペットを連れて避難所に避難することが推奨されてきました。
災害直後は皆さん身を守ることで精一杯なので、避難所にペットがいてもあまり問題になることはありません。
ペットの「同居」が問題になるのは、余震が落ち着いた頃です。
避難所では、土足を禁止して掃除や消毒、毛布のクリーニングなどが行われ、少しずつ室内環境の改善が進んでいきます。
衛生状況が改善されつつある頃に、「人とペットが避難所の同じ部屋にいる」ということを問題にする声が出始めます。
西日本豪雨被災地の避難所にて。撮影・(株)危機管理教育研究所
自治体や避難所によって、ペットを飼っている方のみが生活する教室が指定されたり、飼っていない方と同じ体育館の端に生活区域が用意されたりと対応が異なります。
もっとも、同じ避難所内ですが、「生活区域を移動」することになるので、不満の声が聞かれることもあります。
「ペットを飼っている世帯同士、ひとつの教室に固まることになりましたので移動してください」
と、避難所の職員さんが告げると
「ペット同士の相性があるから嫌です」
とおっしゃる方もいたという報告もあり、ペットを飼っている同士で助け合えるとは言い切れないのが現状です。
また、避難所によっては、ペットは屋外飼養となることもあります。
西日本豪雨被災地の避難所にて屋外飼養されていたワンちゃん。撮影・(株)危機管理教育研究所
ペットとともに暮らす私たちは、災害前にどのような準備をしておけばいいのでしょうか。
まず、町内会などで行われている「防災訓練」「避難所運営訓練」には必ず参加するべきだと考えます。
事前に主催者側に相談した上で防災訓練にペットを連れて行くなどして、主催者側に「その地区にペットがいる」ということに気付いていただくことが第一です。
災害時のペットの対応について町内会長など、地域の長に心配事を相談できる関係を築いておくのがベストですが、難しい場合は区役所、市役所などに相談しておくといいでしょう。
ペット防災の関心を地域で高めることも大切で、ワンちゃんの場合は、近所のお散歩友達などに災害時にどう行動するかを話題にしたり、一人暮らしで猫ちゃんと暮らしている方は、動物病院の獣医師さんに、災害時の一時預かりなどをされる予定があるか、災害時は獣医師さんがどのような支援を検討しているかなどを聞いておいたりするといいでしょう。
ワンちゃんが吠えてしまうと、館内放送やテレビの音、防災無線が聞こえないなどの問題が発生し被災者間のトラブルになることもあります。
多くの人が集まる避難所生活に対応できるようにワンちゃんには、災害前に
・クレートやケージの中で大人しくしていられる「クレートトレーニング」
・なるべく吠えない、吠えても落ち着かせることができる
・噛まない、いろいろな人に慣れている
・トイレトレーニング
のしつけをしておくことが必要となります。
猫ちゃんも、バッグやクレートの中で落ち着いていられるよう、しつけが必要です。
西日本豪雨被災地の避難所にて、怯えて毛布から出てこなかった猫ちゃん。撮影・(株)危機管理教育研究所
西日本豪雨被災地の避難所にて、ケージの中で大人しくしていたワンちゃん。撮影・(株)危機管理教育研究所
ペット用の避難荷物には
・フードとお水、軽い容器
・いつも飲んでいる薬
・リード
・ワンちゃんの居場所(折り畳み式のクレートやケージ、大型犬の場合はカートなど)
が必要です。
また、
・個体識別ができるもの(ドッグタグやキャットタグ、狂犬病予防接種後にもらう識別票など)は、常にワンちゃんや猫ちゃんの身につけておきましょう。
そして、避難所で案外見落とされがちなのが「ペットの衛生」です。
人間にはお風呂の支援がありますが、ペットは避難時や避難所で汚れてもしばらく洗うことができず、ニオイなどが問題になります。
・ペット用のウェットタオル
・消臭剤
・ブラシ
などがあるといいでしょう。
また、ノミやダニの予防は常日頃からしておきましょう。
ワンちゃんや猫ちゃんが汚れたら、ペット用のウェットタオルでこまめに汚れを拭き取ってあげましょう。
耳やおしりなど、ニオイの出やすい場所を拭いてあげるとニオイも少なくなります。
ペットのカラダのニオイ専用の消臭スプレーも販売されています。衛生用品をうまく使って、ペットのニオイを軽減することをお薦めします
ワンちゃんはもちろん、猫ちゃんの場合は特に、
・トイレ(トイレシートや猫ちゃん用トイレ)
がマストです。
「おそうじ不要使い捨てトイレ」は、お掃除いらずで臭わず、排せつした後ですぐ使い捨てできるので衛生的です。
熊本地震では様々な組織・団体がペットの支援をしました撮影・(株)危機管理教育研究所
災害時は、行政職員は「人の命を守る」ことで精一杯です。
とくに人口が過密な地域では、人の支援もままならずペットにまであまり気が回らないこともあるかもしれません。
避難所におけるペット対応の充実を望むだけでなく、本来は飼い主やペットのためにも住み慣れた自宅で継続して生活できるように防災対策を向上させることが重要です。
建物の耐震や家具の固定、ガラスの飛散防止対策などをしておきましょう。
さらに、ライフラインが途絶えた生活では自宅にいることが辛く、「震災疎開」も健康や心のケアに必要な行動の一つだと考えています。
ペットを連れて泊まれるホテルやキャンプ場などを事前にリサーチし、震災疎開について家族と相談しておきましょう。川が氾濫した場合、自分の家にはどのような影響があるかは、各自治体が配布しているハザードマップで調べられます。
例えば、台東区にお住まいなら「台東区 ハザードマップ」で検索すれば、ハザードマップがヒットします。
川の氾濫で浸水などが想定される場合は、早めの避難が肝心です。
とはいえ、「予報」の段階で避難しようとしても、避難所が開いていない場合もあります。
そういう場合でも避難できる親戚の家や、ペット連れで入れるホテルなどを事前に調べておくことも重要です。
多頭飼いの場合、避難を含めた災害対応は一層困難になりますので、相当の計画や準備が求められます。
自宅で過ごせるように防災を向上させることは大前提ですが、日ごろから災害時の支援者や理解者を増やすことに努め、一方で震災疎開や一時預かりなども検討するなどあらゆる方法を探り災害に備えましょう。
避難所におけるペットのトラブルは結局はお互いの状況を理解し、お互いさまの気持ちをもって最善の道を探る努力ができるかどうかだと思います。
自分のペットを守るためにも、日ごろからの地域との交流が重要です。
仲良くしている人が飼っているペットと、名前も知らない他人のペットでは、親身な対応に差が出るのは明白です。
地域にどれだけ関わっているか、どれだけの交流があるかが、災害時には問われることを意識し、避難荷物の準備だけではなく、地域社会での人間関係作りも防災ととらえて、積極的に地域と関わるようにしましょう。