シニア猫こそ予防接種が必須な理由とは? 健康

【獣医師監修】愛猫ワクチンについて「3種混合ワクチンで恐ろしい病気をしっかり予防しましょう」

毎年4月は健康診断&予防接種の季節。でも、「うちの子は昔ワクチンを打ったから、もういいわ」って考えてしまうこと、ありませんか?ストレスに弱い猫ちゃんは、免疫力の低下で恐ろしい病気が発症してしまうことがあるんです。今回は、小林充子先生監修のもと、3種混合ワクチンの重要性についてご紹介します。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行なう。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

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そもそも、ワクチンはどんなしくみで病気を予防するのでしょう?

① ワクチンのしくみ
動物病院で猫に接種するワクチンは、病原体を無毒化または弱毒化したものを体に接種して、感染症に対する免疫力をつけることが目的です。猫のワクチンには、すべての猫に接種すべきコアワクチンと、感染のリスクに応じて接種するノンコアワクチンの2種類があります。

② ペット保険やペットホテルを利用する際などには接種証明書が必要です
病気に対する抵抗力は、獣医的に予防効果が確立されたワクチンと健康的な生活、食生活で身に付けていくべきでしょう。
また、ペット保険によって異なるので約款の確認が必要ですが、ワクチンで予防できる病気にワクチンを接種せずに罹患しても、補償の対象外となってしまうことが多いです。
愛猫をペットホテルなどに預けるときも、ワクチン接種証明書が必要となることがあります。

③ 完全室内飼いでも人がウイルスを媒介する可能性があります
「うちの猫は完全室内飼いで外に出さないから」という愛猫でも、コアワクチンが対象とする病気は空気感染する場合があります。また、飼い主様などご家族が病気を媒介してしまうケースもあります。
たとえば、外で野良猫に触れた手で家の猫を触ったり、野良猫が足元にまとわりついてきたズボンやスカートに愛猫が同じようにスリスリするなどしたりして、愛猫に病気を媒介してしまう場合です。

愛猫も、かかりつけの動物病院で相談しながら、定期的に予防接種をしましょう。

コアワクチン(3種混合ワクチン)で予防できる猫の病気とは?

コアワクチンは、致死率が高く、伝染性が高い病気を予防します。コアワクチンの対象となる病気は、猫汎白血球減少症(猫のパルボウイルス感染症)、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症の3つです。それぞれ、どのような病気か見ていきましょう。

① 猫汎白血球減少症(猫のパルボウイルス感染症、猫ウイルス性腸炎とも呼ばれます)
(1)症状
猫がこのウイルスに感染すると、早い場合は2日ほどで、元気・食欲がなくなり、熱が出てきます。その後、嘔吐したり、下痢をしたりします。重症化すると、数日間で死んでしまうことも珍しくありません。特に子猫は、75%~90%の致死率とかなり高いです。
もっとも、感染したときの猫の年齢によって、症状の出方はかなり異なります。猫が生まれたばかりで猫パルボウイルスに感染すると、ほぼ100%が持続感染、すなわち常にウイルスが体のどこかで増えている状態になります。このような猫は発病しやすく、ほとんどが死んでしまいます。
離乳期を過ぎて感染した場合は、約50%、1歳以上の猫では10%程度が持続感染となります。
(2)感染経路
猫パルボウイルスに感染した猫の嘔吐物や、下痢便から感染します。嘔吐物や下痢便に直接触らなくても、感染した猫が使ったおもちゃやタオル、毛布などから感染することもあります。
ウイルスの感染力が非常に強く、自然界では室温で何ヶ月も感染力を持ったまま存在できるともいわれます。たとえば、猫パルボウイルスに感染した猫が通った道を人が通り、靴の底などにウイルスが付着して家の猫にうつしてしまうことがあります。また、感染した猫に人が触り、その手がウイルスを媒介することもあります。
(3)猫パルポウイルスの恐ろしさは「なかなか死滅しない」ことです
感染した猫に接触して猫パルボウイルスが人の手などに付着した場合、石けんで洗ったり、通常の消毒薬で消毒したりするくらいでは死滅しません。
猫パルボウイルス専用の殺菌剤か、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)などを使わないと殺菌できないという、非常に恐ろしいウイルスです。

② 猫ウイルス性鼻気管炎(猫のヘルペスウイルス感染症とも呼ばれます)
(1)症状
なんとなく元気や食欲がなくなり、突然くしゃみをします。発熱したり、鼻炎によってウミのような鼻汁が出たり、涙の量が多くなって目やにが出たり、上部気道炎や結膜炎を起こしたりします。子猫やシニアキャットでは、死に至る場合もあります。
(2)感染経路
発病した猫の鼻汁や目やに、唾液などへの直接接触、飛沫感染、人が発病した猫に触ってウイルスを媒介してしまうことなどから感染します。多頭飼育の場合、食器やトイレ、ベッドなどの共有で感染しますので、特に注意が必要です。
そして、この感染症の一番大きな特徴は、一度感染した猫は慢性の、生涯続く「ウイルスキャリア」となる、ということです。大きなストレスを受けると、ウイルスが再活性化し、またウイルスを排出するようになるのです。
(3)キャリアは「スーパースプレッダー」になることも!
キャリアとは、症状が出ていないのにウイルスに感染しており、時と場合によってはウイルスを排出し、感染源となる猫のことを指します。
ヒトの新型コロナウイルス感染症(COVID-19[コビット19 coronavirus disease 2019])のニュースで、「スーパースプレッダー」(感染症を引き起こす病原体に感染したホストのうち、通常考えられる以上の二次感染例を引き起こす者)という言葉を耳にされたことがあるかと思います。猫のキャリアは、まさしく「スーパースプレッダー」になりえます。

③ 猫カリシウイルス感染症(猫風邪、猫インフルエンザとも呼ばれます)
(1)症状
なんとなく元気や食欲がなくなります。猫カリシウイルス感染症の場合、くしゃみがあまり出ない場合もあります。口の粘膜に潰瘍ができて、よだれがだらだらと出ることもあります。それにより、口臭を感じることもあります。また、涙の量が多くなり、結膜炎が見られます。
免疫力の弱まっている猫や子猫に感染しやすい一方で、健康的な猫であれば感染しても何の症状も現れないこともあります。
(2)感染経路
ウイルスに感染した猫と感染していない猫との直接接触、飛沫感染です。人がウイルスに感染した猫に接触してウイルスを媒介することもあります。目や鼻がグチュグチュしている野良猫ちゃんに触った手や、洋服を介して感染させることもあるので要注意です。
カリシウイルスは感染力の強いウイルスで、乾燥した環境下では3~4週間生存します。とはいえ、パルボウイルスほどの強さはないので、普通の消毒薬で簡単に死滅します。
また、猫カリシウイルスに感染しても症状が出なかったり、完治したりした場合でも、10%~40%の猫が猫カリシウイルスのキャリアとなる場合があります。そうすると、唾液や鼻水にウイルスを排出し続ける可能性があり、他の猫への感染源となる場合があるので注意が必要です。

ノンコアワクチンで予防できる猫の病気とは? 多頭飼いの場合はどうする?

ノンコアワクチンには、猫クラミジア感染症、猫白血病ウイルス感染症などがあります。どれを予防するかによって、4種~7種の混合ワクチンがあります。
これらは、月齢や住んでいる地域、飼育環境によって、かかりつけの動物病院で相談しながら接種するのが望ましいでしょう。
たとえば多頭飼育中の場合、たとえ擬陽性でも、猫白血病ウイルスにポジティブ(陽性)な猫がいるなら、同じ家で飼っているすべて猫に対応するワクチンを接種しましょう。
かかりつけの動物病院で、不安のあるウイルスに対しての抗体価を測ってもらったうえで、それぞれの猫について接種するワクチンについて相談することもできます。

子猫は動物病院に相談をしてワクチネーションプログラムを組んでもらいましょう

コアワクチンについては、子猫は生後6~8週齢でワクチネーションを開始し、その後、16週齢以降まで2~4週ごとに接種して抗体をしっかりつけることが世界小動物獣医師会(WSAVA)で推奨されています。
猫の飼育環境や、猫が保護猫なのか、ペットショップやブリーダーから迎えた猫なのかを獣医師に伝え、ワクチネーションプログラムを組んでもらい、スケジュールに沿ったワクチン接種をしましょう。

免疫力が落ちるシニアキャットや環境が変わる猫は、3種混合ワクチンを接種すべきです

「うちの子、もう年寄りだしワクチンはいいよね」と思う飼い主様もいらっしゃると思います。しかし、この考えは少し危険です。
たとえば、外で生まれた子猫を保護して飼っているような場合、子猫の時に猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスに感染していることが多いです。「拾ったときに結膜炎や鼻水で顔がぐちゃぐちゃだった」というようなときは、これらのウイルスのキャリアであると考えてよいでしょう。

キャリアの猫たちは、「ワクチンの免疫力で発症を抑えている」状態です。猫は加齢やストレスで、免疫力がかなり低下します。たとえば、引っ越しをしたり、かわいがっていたお姉ちゃんが一人暮らしなどで家を出たり、多頭飼いをするため新しい猫が来たりするなどの環境の変化は、猫にとって大きなストレスとなります。
このようなストレスや加齢は、眠っていたウイルスを活性化させる引き金となる可能性があります。「うちの子、最近やたらとくしゃみをしたり、目やにが多くなったりしている気がするけど、歳を取ったのかしら?」というときは、眠っていた猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスが活性化してしまい、発症したのかもしれません。
シニアキャットや、環境が変わる猫こそ、3種混合ワクチンを定期的に打ってあげるようにしてください。

猫のワクチン接種前後で注意すべきこととは?

ワクチンは、無毒化または弱毒化したものとはいえ病原体を体に入れるので、健康なときに接種すべきものです。治療中の病気などがある場合は、かかりつけの動物病院によく相談をしてください。
ワクチン接種後24時間以内は、顔面の膨張(ムーンフェイス)や皮膚のかゆみ、発疹、嘔吐、下痢、発熱、元気がない、呼吸が苦しそうなどの症状が出る場合があります。これを、ワクチンの「副反応」といいます。
また、「アナフィラキシーショック」といって、ワクチン接種後数十分以内に呼吸困難や、舌や唇が青紫になるチアノーゼなどを起こすこともまれにあります。
ワクチンは午前中の早い時間帯に接種してもらい、様子がおかしくなったらすぐに動物病院に相談できるようにしましょう。
また、ワクチン接種後は激しい遊びなどは避けて、安静にさせるようにしてください。

ワクチンをしっかり打って、恐ろしい病気から愛猫を守ってあげられるのは、飼い主様だけです。かかりつけの動物病院に相談をして、しっかりとワクチンを打ってあげてください。

参考文献:犬と猫のワクチネーションガイドライン(世界小動物獣医師会[WSAVA])

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