この記事の内容をまとめると……
虫などが媒介する病気で気を付けたいのはSFTS、フィラリア、トキソプラズマ
SFTSは「マダニにワンちゃん、猫ちゃん、飼い主様がかまれないようにする」ことが大切
フィラリアは予防薬の定期的な投与で予防できます
トキソプラズマ予防のため、猫ちゃんのウンチの処理やキスなどに気を付けましょう
2018年5月17日に、長崎県五島市でマダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の患者を確認したと発表されました。2017年には屋外で接触した猫にかまれた女性がSFTSを発症し、亡くなったと報道され、虫などが媒介する病気への関心が高まっています。もっとも、虫などが媒介する病気はSFTSだけではありません。
今回は、動物病院「CaFelier(キャフェリエ)」院長の小林充子先生ご監修のもと、ワンちゃん、猫ちゃんの飼い主様が気を付けたい「虫や寄生虫などが引き起こす病気」についてご紹介いたします。
獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行なう。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。
ワンちゃん、猫ちゃんがかかる病気のうち、虫や寄生虫が引き起こす病気は多くあります。このうち、気を付けたいのはSFTSとフィラリア、トキソプラズマです。
どれも予防する方法がありますので、怖がらなくても大丈夫です。
SFTSは、マダニが媒介するブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルス(SFTSウイルス)に感染することにより発症します。
SFTSウイルスに感染すると、6日〜2週間の潜伏期を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が多くの症例で認められます。さらに、頭痛、筋肉痛、意識障害などの神経症状や出血症状などを起こし、亡くなる方もいらっしゃいます。
2013年に、国内で初めてSFTSの患者が報告されました。国立感染症研究所の調査では、2018年春までに324人の患者が報告され、うち61人の死亡を確認しているとのことです。2018年4月25日現在で、北は石川県から沖縄県まで23府県から感染の届出がされています。
マダニは、シカやイノシシなどの野生動物が出没する環境に多く生息しています。SFTSウイルスを保有するダニ(ウイルス遺伝子陽性マダニ)は全国的に分布していると国立感染症研究所は発表しています。
マダニは民家の裏山や畑などにも生息しているため、外飼いをされている猫ちゃんや、散歩中のワンちゃんを吸血する可能性があります。
猫ちゃんは完全室内飼育にされるのが、SFTSを予防するうえでも望ましいといえるでしょう。
ワンちゃんの場合は、散歩中に野山や草むらに入らないようにすることが肝心です。また、ワンちゃん、猫ちゃんにマダニがつかないようにする対策を、かかりつけの動物病院に相談するのもよいでしょう。
ワンちゃん、猫ちゃんにマダニが付いているのを見つけた場合、そのマダニに触ったからといってただちにSFTSに感染するということはありません。
しかし、マダニにかまれれば、感染の危険性はあります。お散歩の後にはワンちゃんの体をブラッシングしながらよく観察し、マダニが体に食い込んでいるような場合は無理に取らず、動物病院で除去してもらうようにしましょう。体を引っ張ると、皮膚にかみついている口の部分がちぎれて皮膚の中に残ってしまうことがあります。
犬や猫がかかるフィラリアは「犬糸状虫症」とも呼ばれます。犬糸状虫の成虫が最終的に肺動脈や心臓に寄生するため、血液の循環が悪くなり様々な症状を起こします。肝臓が肥大したり、腹水が溜まったり、肺動脈や心臓に栄養を与える血管を塞いだりすることで、貧血や血尿、喀血、呼吸困難などを伴う症状が現れ急死するケースも少なくありません。血液の循環が悪くなるので栄養不良や肝硬変、脳貧血などを起こし、最後には腹水がたまって死に至ります。
「フィラリア」は、ワンちゃんが番犬として屋外で飼われていた80年代までは、犬の死因として癌などよりも恐れられていた病気でした。
なお、フィラリアには「犬糸状虫症」以外にも多くの種類がありますが、人間に寄生するのはごく少数ですし、そのほとんどは熱帯、亜熱帯で発生しています。日本では過去、沖縄などで感染例があったそうですが、現在は防ぎ止められており、宮古福祉保健所には「フィラリア防圧記念碑」が建てられています。また、「犬糸状虫症」がワンちゃん、猫ちゃんから人に感染することはありません。
フィラリアの幼虫を持っている蚊が、ワンちゃん、猫ちゃんを刺すことによって感染します。蚊の体内で育ったフィラリア(糸状虫)の幼虫が、蚊の刺し傷からワンちゃんや猫ちゃんの体内に移動して成虫になり、心臓の右心室から肺動脈にかけて寄生します。糸状虫の長さは、雄で15cm、雌で30cmにもなります。
フィラリアの予防薬には、口から飲ませるタイプや皮膚につけるスポットタイプ、注射などいろいろな方法があります。中でも有名なのは、2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智(おおむらさとし)・北里大学特別栄誉教授らが研究した「イベルメクチン」などを使った予防薬です。これは「蚊から感染した幼虫が、発育しながら皮膚から心臓への移動を始める間に幼虫を殺す」というものです。
フィラリアの最適な予防薬や予防期間は、お住まいの地域によって異なります。必ず、かかりつけの動物病院に相談をしてください。ワンちゃん、猫ちゃんのための虫よけについても、合わせて相談するとよいでしょう。
トキソプラズマ症は、トキソプラズマという寄生性原虫によって起こされる感染症です。
健康な大人や子どもが後天的にトキソプラズマに感染した場合、多くは症状が出ません。ただし、感染していたトキソプラズマが再び勢いを取り戻した場合、脳炎や肺炎などの重篤な症状を引き起こす場合があります。
恐ろしいのは、妊娠中の女性がトキソプラズマに初めて感染した場合です。お母さんからお腹の中の赤ちゃんへと胎盤を通じて感染してしまうと、流産や死産の原因になったり、赤ちゃんが「先天性トキソプラズマ症」になった状態で生まれたりする可能性があります。症状として、視力障害や運動障害などがあります。
ブラジル、フランスなどで感染率が高く世界的に見ると全人類の1/3以上(数十億人)が感染しているとされています(国立感染症研究所調べ)。
トキソプラズマは、十分に加熱していないお肉を食べたり、猫ちゃんのウンチに含まれるトキソプラズマが口に入ってしまったりして感染します。
猫ちゃんのウンチにトキソプラズマが排出されるのは、「いままでトキソプラズマにかかったことがない猫ちゃんがトキソプラズマに感染した場合」です。過去に感染したことがある猫ちゃんのウンチには、トキソプラズマは含まれません。
未感染の猫ちゃんがトキソプラズマに感染すると、ウンチからトキソプラズマが排出されます。ウンチが出てから24時間程度経つまで、ウンチの中のトキソプラズマは感染力をもたないので、24時間以内にウンチを片付けましょう。このとき、使い捨ての手袋をして片付け、片付け後に手をよく洗うようにしてください。 また、猫ちゃんは全身をなめるので、猫ちゃんとの濃厚なキスは避けたほうが無難です。
猫ちゃんを飼っていない場合でも、ガーデニングなどで外飼いの猫ちゃんがウンチをした土をさわるなどした場合、その土内にトキソプラズマが含まれている可能性もあります。ガーデニングのときはガーデニング用の手袋をして、手をよく洗うようにしましょう。