血液検査表の数値からペットの健康が把握できます 健康

血液検査ってどういう意味があるの?【獣医師に聞く】血液検査表の読み方

年に1度の予防接種の際に、ペットの健康診断をするのがオススメです。
健康診断で行うことが多い血液検査の検査表からは、ペットの健康に関するたくさんの情報が読み取れます。
今回は、ペットの血液検査の意義と、血液検査表の読み方についてご紹介します。
※血液検査表は動物病院によって形式が異なります。

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。

血液検査からわかる病気にはどんなものがある?

血液検査は、フィラリア(犬糸状虫症)、腎不全、糖尿病、甲状腺機能低下症や亢進症、クッシング症候群、ホルモンの異常、膵炎などの病気や、貧血、脱水、炎症などさまざまな症状を発見するきっかけとなります。
毎年、春頃の予防接種の際に、ぜひ愛犬、愛猫の血液検査も行ってみてください。

血液検査表の項目にはそれぞれ、どんな意味がある?

もちろん動物病院によって異なりますが、当病院で使用している血液検査表をご紹介いたします。

ワンちゃん用の血液検査表です

ネコちゃん用の血液検査表です

多くの血液検査表には、目安となる「正常値」が記入されています。この正常値より高かったり、届かなかったりしたときに直ちに異常となるわけではありませんが、値が正常値におさまらなかった場合は、獣医師と日頃の健康管理につき、よく相談をしてください。

高い場合に気をつけたい項目は?

検査項目のうち、高い場合に特に気を付けていただきたい項目はGLU(グルコース、いわゆる血糖値)、BUN(尿素窒素)、CREA(クレアチニン)、ALT(アラニントランスフェラーゼ)、AST((アスパルテート)アスパラギン酸トランスフェラーゼ)、ALKP(アルカリフォスファターゼ)、GGT(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)、TCHO(総コレステロール)、TG(中性脂肪)などです。

GLUが高い場合、糖尿病の恐れがあります。ただし、ネコちゃんの場合、ストレスを感じると短時間でGLUがかなり上昇することがあります。
人懐こく動物病院にストレスを感じない性格のネコちゃんでも、いざ採血となると大きなストレスを感じます。
糖尿病か判断に迷う程度の血糖値の場合は、尿検査を同時に行い尿糖が出ていないかを確認したり、性格や経過をみながら糖尿病が隠れていないかを診断したりしていきます。

BUN,CREAが共に高いと、腎不全の疑いがあります。また、BUNだけが高い場合、腎臓に問題があるのではなく、例えば心臓に問題があったりする場合があります。
僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種であるキャバリアやチワワの場合には特に注意が必要です。
さらに、肝臓の指標であるALT、AST、ALKPが高い場合は、肝臓や胆道系の疾患が疑われます。
また、副腎皮質ホルモンの過剰分泌により、多飲多尿、脱毛や腹部膨満、過食(肝臓肥大)などの症状が起こるクッシング症候群があるときなども、ALKPの値が高くなります。

ミニチュア・シュナウザーは、原因は詳しくわかっていませんがALTが高い値を示す子が多いです。
ALTに異常があった場合、3カ月に1回くらいの定期的な血液検査をオススメします。
また、シリマリン、サムイーなどの肝臓を保護する効果があるといわれるサプリメントを、獣医師と相談の上で取り入れるのもいいでしょう。

また、TCHOが上がっているときは甲状腺機能亢進症が、TGが上がっているときは甲状腺機能低下症が疑われます。
ただし、これはあくまで目安です。犬で甲状腺機能亢進症はほとんど見られませんし、逆に猫では甲状腺機能低下症はほとんど見られません。
脱毛が進んできたり、皮膚の状態が悪くなってきたり、またいわゆる「年をとったなぁ」と思われるような症状が見られるようになったら、甲状腺ホルモンの検査を合わせて受けてみるといいでしょう。

低い場合に気をつけたい項目は?

反対に、低い場合に気をつけていただきたい項目は、TP(総蛋白)、ALB(アルブミン)です。ALBが2.0g/dl以下にまで低下してしまった場合、血管から外に水分が出てしまい、胸水(きょうすい:肺などの胸部に水が貯まってしまうこと)などが引き起こされる可能性が高くなります。
ALBは、アミノ酸(蛋白質)を原料として肝臓でつくられます。
ALBが極端に低い場合は、食べ物から蛋白質などの栄養素をうまく吸収できていない可能性や、ALBを作る肝機能がうまくはたらいていないなどの原因が考えられます。

また、赤血球数やヘマトクリット値が低い時には貧血が、白血球数が低い場合は好中球減少症やウイルス感染症、血小板の値が低い場合は血小板減少症などが疑われます。

PCV(ヘマトクリット)、ヘモグロビン(赤血球)の数値にも要注意です

PCVやヘモグロビンの数値が高い場合、脱水、すなわち水分が足りていないことが考えられます。
ワンちゃんにも見られますが、水をあまり飲まないネコちゃんによく見られます。
ウェットフードに切り替える、冬はぬるま湯にしてみる、出汁を少し加えてみる、夏は氷を入れる、ペット用のウォーターファウンテンを使うなどして工夫し、お水をなるべく飲ませるようにしましょう。

また逆にこれらの数値が低い場合、貧血の状態になっていると考えられます。
貧血の原因は多岐に渡り、その後ろに大きな病気が隠れていることもあります。
貧血の傾向が見られたら、きちんと検査をして原因を突き止め、治療することが大切です。

血液検査はどのタイミングで行えばいい?

子犬や子猫の場合、生後5~6カ月で不妊去勢手術を受ける子が多いと思います。
手術の際に必ず血液検査を行いますので、血液検査表は保管しておきましょう。スマホなどで検査表の写真を撮っておくのもオススメです。
そのときの血液検査で異常が見つかった場合、獣医師と相談の上で、定期的に検査を行うといいと思います。

異常がない場合は、8歳くらいのシニアになるまでは、年1回検査すれば十分です。
予防接種時の健康診断で血液検査を行うのがよいでしょう。
8歳以上のシニアでも、健康上の問題がなければ年1回程度でかまいません。

その先は、半年に1回くらい検査を行うのがオススメです。
数年前から新しい腎機能マーカーであるSDMA(対称性ジメチルアルギニン)という検査項目が測定できるようになりました。
CREAは腎機能が75%以上低下して初めて数値が上昇するのに対し、SDMAは腎機能が40%程度低下したところで数値が上昇します。
すなわち、今までに比べて格段に早く、腎機能の低下がわかるようになり、慢性腎不全に対する早期治療が可能になりました。
シニアのネコちゃんはかなりの割合で腎機能が低下しています。
10歳を超えたら、SDMAを測定していくといいですね。

定期的な血液検査で傾向を把握しましょう

血液検査の「正常値」は、絶対的なものではありません。
健康的なベストスコアは、その子によって異なります。
子犬の頃から健康診断と血液検査を行って記録することで、その子の傾向を把握できます。
弱そうなところがわかれば、食生活や日常生活の中で日々ケアしていくことができますし、毎年、血液検査を行っていると経過が分かる上、何か病気になった時も早期発見することができます。

引っ越しなどで動物病院が変わった場合は、獣医師に今までの血液検査の結果を伝えられるようにしておくと、獣医師も過去、現在のその子の健康状態を把握することができ、余計な検査をすることなく適切なアドバイスがもらえることでしょう。

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