~すでに猫を飼っている方~(犬猫両対応) 暮らし

【獣医師監修】多頭飼いの心得②「もう1匹欲しい」ときは先住猫の性格を要チェック

「1匹目も落ち着いてきたし、もうそろそろうちも2匹目がほしい……」。猫と幸せな生活を送っていると、よく考えることです。「うちの子の性格で多頭飼いができる?」「新しい子はどんなふうに迎えたらいい?」「犬を迎えたいけれど、犬と猫は多頭飼いできるの?」と、疑問は付きません。そこで、猫の多頭飼いについて、小林充子先生にお答えいただきました

小林充子先生

獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。保護猫活動、保護犬活動にも熱心で、ミルクボランティアなども積極的に行っている

Index

後住猫を迎える前に押さえておきたい、猫の基本的な習性

(1)猫のソーシャルディスタンスは2mです
コロナ禍で私たちが意識するようになった「ソーシャルディスタンス」(社会的距離や接触距離の確保)ですが、猫は常にソーシャルディスタンスを必要とします。
「テリトリー」や「フライト・ディスタンス(逃走距離)」という言葉で表現されますが、猫は互いの猫パンチが届かない距離、できれば互いの距離が2mくらい離れているほうがストレスを感じません。
猫は親や兄弟猫など、生まれた頃から一緒にいる猫を除いては、基本的には1匹でいたい動物です。慣れによって最終的には同じ空間(家庭)にいられるようになりますが、猫それぞれに逃げる場所が必要です。たとえば、6畳一間に先住猫と住んでいる中で、後からもう1匹猫を迎えるのはちょっと厳しい場合があるかもしれません。
「猫同士のソーシャルディスタンスは2m、それぞれの逃げ場所をキープすること」を念頭に、部屋の猫密度を考えて後住猫を迎えることをお薦めします。
先住猫と仲良くなれればいいのですが、仲良くなれない時のことを考えると、たとえば、1LDKならリビングに1匹、寝室に1匹といった具合に、猫1匹に1部屋を意識するようにしたいものです。

(2)猫が社会化できる期間は生後4週間から8週間と短いです
猫は、人間やほかの猫、動物との触れ合いを通して情緒を育み、人間社会に順応する基本を身につける「社会化」が生後4週間から始まり、8週間で終わります。犬の社会化期間が生後3週間~14週間に比べると、かなり短いです。
私は母猫とはぐれた授乳期の子猫にミルクを与えて育てる「ミルクボランティア」をしておりますが、社会化に私や病院のスタッフ、高校生の娘という幅広い世代の人間の手からミルクを与え、我が家の猫とふれ合わせ、病院でほかのワンちゃんなどを見せたり会わせたりすることで、社会性を育むようにしています。
しかし、保護した段階で既に生後8週を過ぎてしまっていると思われる子猫は注意が必要です。こういった子たちは、生後8週間まで人やほかの群れの猫などに出会わず、親兄弟猫とだけ暮らしてきたため、いわゆる「野良猫」になっており、親兄弟猫以外に対してかなりの警戒心を持っています。
なので、保護してから人や他の猫たちに馴化させる必要があり、こういった子たちに慣れている我々や保護団体の人たちが、時間をかけて徐々に馴らしていきます。
もちろん十分に馴れさせた後に里親さんを募集するのですが、後住猫にこうした保護猫を迎えるのは、「猫を飼ったのは先住猫が初めて」という方には難しい場合があるかもしれません。保護団体の方とよく相談をしてください。

後住猫に保護猫を迎える場合

(1)保護猫を迎える場合、大事なのはトライアルです
先住猫ちゃんが家にいる場合、猫はお散歩に出ることがないので、ほかの猫と仲良くできるかの見極めはとても難しいです。また、保護猫が育った環境などによっても異なります。
私のケースをお話しますと、3年前、当時11歳(♀)と6歳(♂)の先住猫がいる中で、生後3か月くらいの兄弟猫2匹を迎えました。現在14歳になった一番年上の猫は、3歳の兄弟猫を一応許容はしていますが、近づくとシャー!と言います。互いの猫パンチが届かない距離にいるなら許します、という態度を今も貫いています。
9歳の猫は、3歳の兄弟猫を迎えた当初こそ2~3日はシャー!フー!と言っていましたが、子猫たちがあまりに慕ってくるため段々と諦め、今では3匹で追いかけ回して遊び、べったりくっついて寝るような仲になりました。
迎えても大丈夫かを見極めるには、トライアルがとても重要となります。多くの保護団体は保護猫を迎えるためのトライアル期間を設けていますので、保護団体の方と相談しながら、最低2週間、できれば1カ月ほど相性を見るのが理想的です。
トライアル期間中に、本気の血みどろの喧嘩をしてしまったような場合は、相性的に難しいかもしれません。その子を後住猫として迎えるのは厳しいかもしれませんので、他の子のトライアルを考えるか、後住猫のお迎えそのものを見直した方がいいのか、保護団体の方と話し合ってみてください。

(2)保護猫が兄弟姉妹猫の場合、兄弟で引き取ったほうがうまくいくことも
「この2匹の猫は兄弟猫で仲良しなので、2匹一緒に迎えてくださるファミリーを希望します」という募集が、保護猫の場合は多いかと思います。
毛色が同じ兄弟猫は父母猫が一緒の場合がほとんどなので、確実に仲良しです。じゃれ合いの中で甘噛み、取っ組み合いの限界を学び、互いにグルーミングし合って一緒に眠り、常に一緒にいることで、2匹ですべて完結してくれるので、迎える側もとても楽です。
「兄弟姉妹で保護猫」は離すよりも一緒に迎えたほうがよいでしょう。後から来た2匹で遊んでくれると先住猫にとばっちりがいくことも少ないので、先住猫も後住兄弟姉妹猫を受け入れやすいです。

(3)ペットショップから後住猫を迎える場合
良心的なペットショップから迎える猫は、生後4週間から8週間という社会化期間に店員さんや、ほかの猫とよくふれ合っています。また、ペットショップにいる犬を見ているので、きちんと社会化された状態で迎えられることが多いです。
子猫であることが多いので、先住猫がシャー!としても、後住猫はあまりめげない場合がほとんどです。先住猫が後住猫を受け入れるまでの期間には個体差がありますが、結果的にうまくいくケースが多いように思います。

先住猫がシニアキャットの場合

(1)先住猫のテリトリーを守り、ストレスに気を配りましょう
先住猫が10歳以上のシニアの場合、先住猫のテリトリーを守ってあげることが何よりも大切です。
先住猫が慣れるまで、後住猫は段差付きケージなどを生活の場としたほうがいいでしょう。
後住猫が来てしばらくは、先住猫の体調に気を配りましょう。ストレスから膀胱炎を発症したり、食欲が落ちたり、嘔吐や下痢などの消化器症状が出たりすることがあります。

(2)先住猫、後住猫ともにワクチンが大切です
後住猫が保護猫の場合は、保護時に目やにや鼻水やくしゃみなどの症状が出ている子もよく見受けられ、こういった子たちは猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスなどに感染している可能性が高いです。かかりつけの獣医師と相談をして、しっかりワクチネーションをしてください。
また、ワクチンの回でも解説しましたが、猫はストレスで免疫力がかなり低下します。子猫のときに猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスに感染していた場合は、「ワクチンの免疫力で発症を抑えている」状態ですので、後住猫を迎える場合は先住猫にもしっかりワクチンを打ってください。もちろん、そういった感染の可能性が低い場合でも、先住猫のワクチンの接種は必須です。

(3)シニアが後住猫のご飯を食べないように気を配りましょう
最も気を付けなければいけないのは、ご飯です。シニアになると持病を持っている子も多く、それに合った療法食をあげることが多くなります。
もちろん栄養たっぷりの子猫用フードのほうがおいしいですし、香りもいいです。シニアの猫ちゃんは、療法食よりも後住猫が食べているフードをほしがるはずです。
うっかり見逃した隙に、先住猫が後住猫のフードを食べてしまうこともありますので、食事のときは必ず見ていてあげるか、後住猫はサークルなどの中でフードをあげるようにするといいでしょう。また、逆に、後住猫が先住猫のフードを食べてしまうことがないように気を配ってください。

猫を飼っていて、後から犬を迎える場合

後から犬を迎えた場合、猫が体調を崩したり、犬に攻撃的になったりする場合もありますが、一過性であることが多いです。
後住犬が子犬の場合、子犬は先住猫に喜んで近づきます。猫パンチの洗礼を受けることもありますので、迎えてしばらくは注意深く見守ってあげてください。
また、先住猫は棚の上などから後住犬を見張るでしょう。先住猫の居場所を確保し、猫の好きにさせてあげてください。
後住犬は、先住猫から怒られるうちに、猫のソーシャルディスタンスを学びます。また、犬はどうやっても、3次元で暮らす敏捷な猫には勝てません。猫は棚の上に逃げられますが、犬はそうもいきません。どこかで犬は諦めるので、犬が怪我をしないように気を付けつつ見守ってあげましょう。

後住猫を迎えたときの居場所とトイレの数

(1)後住猫は1週間ほど天井付きのサークル暮らしがお薦めです
最近では、天井が付いた背が高いケージに、キャットタワーとトイレがセットされた製品などが販売されています。後住猫は、先住猫が慣れるまで、そういった高さのあるケージの中で生活させることをお薦めします。迎えて2~3日すると先住猫がケージに近づき、匂いを嗅ごうとするでしょう。そのときは、見守ってあげてください。
4~5日経ったらケージのドアを開ける時間を作り、様子を見ながら先住猫と後住猫が同じ部屋で過ごせるようにしてあげましょう。

(2)トイレの数は猫の頭数プラス1が理想
犬はほかの犬の匂いの上に自分の匂いをつけたがりますが、猫はほかの猫の匂いがするところでの排せつを好まない子が多いです。
猫の場合は、猫の頭数プラス1のトイレを用意してあげてください。

多頭飼いをすると、猫同士、猫と犬同士の関係を見て、飼い主様もほっこりすることが多くなるでしょう。また、先住猫が虹の橋を渡ったときも、後住猫や犬が飼い主様を癒してくれるので、ペットロスが軽くなることもあります。迎えた猫ちゃんやワンちゃんを大切に、幸せなペットライフをお送りください。

ー おすすめ記事 ー