3農学博士・獣医師の
害虫セミナー

害虫はどこでも生きていける!?

さまざまな種類のダニ

ダニの活動が活発になるのは春先から秋口にかけてと言われていますが、季節に関係なく家の中にいるのは「屋内塵性(おくないじんせい)ダニ類」。具体的には、ヒョウヒダニやコナダニ、ツメダニのことを指しますが、ヒョウヒダニは人間が活動していたら必ずいるダニで、フケや垢などを食べ、人がこのダニの死骸や糞を吸い込んでしまうと、アレルギーを引き起こすことがあります。コナダニは小麦粉や乾燥食品などから発生し、ダニアレルギーの人がこれらの食品と一緒にダニを食べてしまうと、アレルギーを発症することがあります。ツメダニは普段はヒョウヒダニなどを餌としていますが、数が増えると人を刺す確率が高まります。
屋外では土壌中にも植物の分解を担う多種類のダニが無数に生息し、農作物の害虫となっているダニや水中に生息するダニもいます。これらの他、人に危害を及ぼすツツガムシ、ヒゼンダニ、イエダニなどもいますし、ニキビダニ(顔ダニ)という人の肌に住みついているものもいます。ダニと一口に言っても、生態系の維持に欠かせない種類のダニもいれば、ペットや人に害を及ぼす種類など、さまざまです。

マダニの生態とペットや人に及ぼす危険性

屋内にいるダニと異なり、“マダニ”は散歩などの外出時にペットに付いてきます。草むらなどに潜み、動物の体温や二酸化炭素などを感知して、吸血対象の動物に寄生します。なぜ血を吸うのかというと、脱皮や交尾、産卵のため。つまり、彼らにとっては生きていくための唯一の栄養源が動物の血液なのです。ペットに寄生し、たっぷり血を吸うと自ら剥がれ落ち、土中に潜ってから脱皮や産卵をします。ペットにマダニが寄生し、大量に吸血されると貧血になることがあります。また、マダニの唾液がアレルギー性皮膚炎やダニ麻痺症を引き起こすこともあります。しかし・・・マダニの被害で最もおそろしいのは、ペットや人のさまざまな感染症を媒介することです。マダニが媒介する犬の感染症で最も問題となっているのがバベシア症。バベシア原虫に寄生された赤血球は破壊され、発熱や極度の貧血、黄疸を引き起こし、重症化すると死亡することもあります。
人のマダニ媒介性感染症としては、リケッチアが病原体の日本紅班熱やエールリヒア症、ボレリア菌が病原体のライム病、コクシエラ菌が病原体のQ熱、ウイルスが病原体の脳炎や最近大きな問題となっている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などが挙げられます。日本紅班熱、脳炎やSFTSは死亡例も多く、注意が必要です。また、これらの感染症の多くは、人だけでなくペットでも発症する人獣共通感染症です。

温暖化によって害虫の分布域が拡がる?

暖かい期間が長くなれば、害虫の種類によっては発生する回数も増えると考えられていますが、温暖化の影響で害虫の分布域が拡がっている事例もあります。デング熱、チクングニア熱、ジカ熱などを媒介する南方系の「ヒトスジシマカ」では、これまで見られなかった青森県での生息・定着が確認されています。また、地球温暖化により、北半球・南半球とも、温暖な地域が毎年ほぼ3kmずつ北上・南下していると唱える研究者もいます。このように、自然環境の変化によって害虫の分布域が拡がる可能性は十分に考えられます。